まったり創作しております。メインはオリジナル小説。そろそろ版権にも手を出したい。

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黄昏マリオネット17
「先輩ー!只今戻りましたっスー!!」

勢い良くドアを開けて柿太朗がやかましく仕事から帰宅したが、リビングの椅子に座り氷とレモネードが入った丸みのあるグラス片手に携帯で電話していた銅が冷ややか視線で柿太朗を強く睨んだ。柿太朗はその視線を真に受けて恐縮した様子でそそくさと自室に入り室内着に着替え始める。

「・・・その後の水神の体調はどうだ?」
『もうすっかりげんきになって、わたしにもあってくれるようになったわ・・・あなたたちのおかげ。ありがとう・・・』

銅の電話の相手は先日行った二丁目の山の中腹にある店『おめめあります』の店主、八ツ梅だった。消えいりそうな声を久々に電話越しに聞きながら銅は淡々と相槌を打つ。

『そういえば・・・あなたたちがかえったあと、はなしにあったしろいおんなのひとがきたわ・・・。』
「・・・何?」



・・・回想するのであれば時は遡り、銅一行が下山した次の日。八ツ梅がいつもの様にカウンターの隅の席でとろとろに呆けた顔をして煙管を吸っていると、水神や猫又に呪詛を施し、柿太朗にちょっかいを掛けた白い女、世七子が『おめめあります』に入って来た。八ツ梅は焦点の合わない山羊目で世七子の方向をぼんやり見詰めた。

「なぁにかごようかしら・・・?」
「アンズメコマドリの瞳を売ってくれないかしら。」
「あらあなたは、はなしにあったしろいひとね・・・。わたしのおともだちと、このやまをくるしめたあなたには・・・おしょうばいはできないわぁ。」
「そう。それなら少し痛い目見る事になるけれど・・・よろしくて?」

世七子は背中に帯刀していた柄無し大釜を片手で抜き出して八ツ梅の鼻先から刃を突き刺した。それに対し八ツ梅は瞳孔が開ききった山羊目で焦点をブレさせながらその切っ先をぼんやり見つめていた。

「いたいのはきらいじゃないけど・・・でも、おしょうばいはできないの・・・。」
「そう。商売出来ないならこんな店必要無いわね!」

その太刀筋、まさに怒号。力いっぱい振り降ろした大鎌からは激しい水属性のかまいたち、厳密には水属性なので水蒸気を圧縮した様な湿度のある太刀筋が八ツ梅の座るカウンターテーブルを破壊する。八ツ梅のもったりとしながら驚いた様な微妙な表情の変化が衝撃の合間から見る事が出来た。

「!!」

・・・しかし、世七子が仕留めた手応えを感じる事は無かった。目の前のカウンターが店が世界が八ツ梅が、言葉の通りぐにゃりと歪み始めたのだ。異様な光景はかなり気色が悪く世七子は眉間に皺を寄せ、思わず冷や汗をかいた。八ツ梅すらドロドロに歪んで行くトリッキーな目の前の景色に内心動揺しながら世七子は大鎌を構え直す。

「ああ、いじわるは、いやよ。」

目を白黒させている世七子に八ツ梅が軽い足取りで後ろから歩み寄って抱き付く。ねっとりと囁いて息をそっと吹き掛けると世七子は崩れ落ちてフローリングに膝を付いたのだった。



『・・・あのこ、しばらくさいきふのうになっちゃったからどうぶつさんにおねがいして、やまのふもとにおいてきちゃったわ。』
「八ツ梅、貴女はそんな事も出来るのだな。」
『ええ。わたしのすうきせるのはっぱは、まぼろしをみせてくれるわたしのだいすきなどうぶつのひとみをおりまぜてつくっているものだから、とてもわたしのじゅつとあいしょうがいいのよ・・・。』
「そうか・・・。」

平仮名になってしまうほど弱々しい八ツ梅の話を解説すると、八ツ梅の吸う煙管の葉には摂取すると幻覚作用が起きる八ツ梅本人お気に入りの動物の瞳も織り混ぜてあり、それが本人の幻術とかなり相性が良く、煙管の煙を相手が吸うと八ツ梅の半端ない威力の幻術がクリティカルヒットしてしまうという事だ。

「末恐ろしいな。」
『そういえば、そのおんなのひと・・・なんかせいふくをきていたわ。がくせいさん・・・かしら?』
「制服?」
『おやくそくのあんずめこまどりのひとみをおくるときに・・・せいふくのえをそえましょうか?』
「嗚呼、それは助かる。」
『あと、たんぽぽこーひーもやくそくしてたわねぇ。』
「いや・・・」

柿太朗が『タンポポ』の正体に気づく前にしていた約束をここで知った銅。電話越しに気付かれ無い様に溜め息をこぼす。本当はあの力ない筆圧でしかペンを握れない八ツ梅のイラストもあてにならないと思うが、そこは何も情報が無いよりかはましだと考えた。ただ、タンポポコーヒーは本当にいらない。

「コーヒーは結構だ。送らないでくれ。」

良心で送ろうとしてくれているものを断るのは少々心に響くとつい思った銅はいつもより丁重に断る事にした。

あれだけ長く暑かった夏ももう終わりを告げようとしていた。ひぐらしが解夏を寂しがる様な悲鳴を町中に響かせている。
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