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黄昏マリオネット8

じりじりと、太陽が止む事なく照りつける、灼熱の夏。
この前のバーへ出向いた日から数日後、銅は『夏の交通
安全イベント』の手伝いスタッフとして会場であり職場
の、帝雲町図書館へ出勤していた。
内容としては、図書館へ日々出向いている子どもたちの
中で希望者を募り、イベント日に普段は館内の窓から見
る事しか出来ない図書館の中庭へ招待をして、図書館ス
タッフが絵本や紙芝居を参加した子供たちに披露し、最
後に帝雲町の警察職員が交通指導を実演すると言った内
容だ。不定期に行われるこの中庭でのイベントは交通安
全指導以外にも様々な催しが行なわれ、普段入る事が出
来ない中庭へ入れるといった好奇心をくすぐる点からし
ても言わずもがな今回も大成功だった。

「先輩、顔色悪いっスよ。」

荷物の入った段ボールを両手に、不安なそうな顔で銅の
顔を覗き見る警官姿な銅の同居人、柿太朗。
何故交通課でもない彼が今回のイベントに参加している
かは、無論銅のいる図書館へ仕事中に行けるからなのだ
が、右手を頭に押しつけるかの様に置いて、どうみても
頭痛からくる体調不良である事が容易に考えられる銅の
姿に気づき、中庭の上を仰ぎ見る。

「嗚呼、ここ吹き抜けで直射日光ガンガンですものね。
この天気だと日射病になるかもしれませんから先輩、休
憩してきてはいかがっスか。
そういえば、図書館の入り口出て直ぐの広場にアイスの
移動販売が来てましたっスよ、買って来て休憩室で食べ
ると良いかと。」
「い、いや・・しかし・・・。」

外の方を指さす柿太朗の声掛けに対し、銅は自らの真面
目な性根から渋った返ししかせずにいた。
その姿を柿太朗は金色の瞳をアーチ状に歪ませて眺め、
自分の先輩への愛おしさを再度噛みしめていたが、直ぐ
に我に返り銅を安心させようと口元に笑みを色付かせる。

「片づけなら俺達に任せて下さい、先輩朝から準備頑張っ
てたじゃないっスか。他の図書館の人には俺から言って
おきます。」
「そうか・・・すまない。」

銅は申し訳ないのと頭痛の痛さから酷く辛そうな気持ち
が溢れる位に眉間に皺を寄せて定まらない足取りで図書
館の入り口の方へ歩いて行った。
自分が先輩と呼ぶ男の後ろ姿を心配とも、はたまたうっ
とりとしている様にも見える目付きで見守りながら柿太
朗は心の奥深くで、うっすらと一言呟いた。

(無理しちゃって・・・可哀相な先輩。)



* * *
図書館の外へ出た銅は、すぐそこにある水色のワゴンに
白抜きで書かれた『アイス販売』の文字を見つけカウン
ターで作業をしている販売員の男に声をかけた。
男は車内にも日差しが照り付けて来るからなのか、つば
が大きめの麦藁帽子を深く被り顔に影が掛かっている。
ラムネ味のアイスを注文すると、男はカウンター裏に設
置している業務用の冷凍庫からラムネ味のアイスバーを
手探りで探して取り出すと、銅にパッケージの袋から出
して手渡し、金額を言う。
銅はアイスを受け取りポケットの財布から100円玉を
取り出すと男の手に置いた。

「あ、お嬢ちゃん、今日はそこに椅子置いたから良かっ
たら座って食べな。パラソルも置いてあるし涼しいぞ。」

販売員の男がワゴンの後ろあたりを指差して銅に教える。
”お嬢ちゃん”なんて呼ばれてしまうも気にする事もな
く銅は男が指を差すあたりを見てみると、そこには海の
家にあるようなプラスチック製の白い椅子が2脚と大き
いパラソルが添えてある簡易的な休憩スペースが設置し
てあった。
銅は男の善意的かつ好意的なお言葉に甘える事にして椅
子に控えめに座り、今しがた購入したアイスを啄ばんだ。
口の中にラムネの爽やかな風味が冷たく溶け込み、頭の
火照った様な痛みもゆっくりと落ち着き始めた。

「お嬢ちゃん、図書館の人だったっけか。」
「ああ。」

販売員の男が休憩のつもりなのか、銅の向かいの椅子に
大きな欠伸をかきながら座る。
例えサボりであったとしても、こんな酷い猛暑に人っ子
一人出歩いている姿はまず見受けられないが。

「あの胡散臭そうなオマワリの兄ちゃん、また一緒に来
てたな、今日は交通安全かなんかの催しだったのか。」
「ああ。」
「なあ、なんであんなのといつも一緒にいるんだ。遠巻
きではあるけどよ、見る限りでは良い野郎には見えねぇ
な。いっつもへらへら笑ってやがって、お嬢ちゃんをお
ちょくって楽しんでやがる。」

男である銅を、恐らく勘違いから”お嬢ちゃん”と呼ぶ
勘違い男は椅子の肘掛に頬杖をついて銅に言う。
麦藁帽子の影から見えるか見えないか程にちらつく男の
口元はイの字に横伸びをしていて、『あの胡散臭そうな
オマワリの兄ちゃん』もとい、銅の同居人である柿太朗
のへらへらした姿を思い出して微かな苛立ちの表情をし
ている様子が、その見え隠れしている口元から伺えた。
銅はアイスを舐めながら静かに男の言葉を聞いていたが、
男の表情とは対照的に微塵も表情を変える事はなく、む
しろ沈黙が返事だと言わんばかりにただただ静かにアイ
スに口を付けて、その味で涼を取るばかりのまま二人が
次に言葉を発するまでもなく、ワゴンの方向から小さな
人影が現れて男に声を掛けて来た。小学生位の少年で、
この真夏に対して不釣り合いなまでに血の気がく感じら
れない真っ白な肌に、その絹の様であたかも肌に溶ける
かの様な色素の淡い髪の毛が少年の小さい顔の周りで小
さく揺れていて、見ているこっちが見えている目の前の
景色に違和感を感じてしまう。
少年が唯一夏らしく目元に掛けている子ども用のサング
ラスは、少年の雰囲気に合わせて眼鏡の様な控えめなデ
ザインに出来ている。さらにその合間から見える眉間か
ら鼻に掛けての顔立ちは子どもながらに彫りが深めで、
目元はサングラスのレンズで見えないが、どことなしか
ヨーロッパかどこかの少年の様な印象を受ける。

「アイス、売ってますか。」
「はい、売ってますよいらっしゃい。・・・ゆっくりア
イス食べてて大丈夫だからなお嬢ちゃん、行って来る。」

男のとっさの反応はさすが商売人といった所か。
お客様へ素早く言葉のレスポンスを返す。
接客態度は可もなく不可もない妥当な様子ではあったが
銅に一言告げてさっとワゴンの中へ入ってしまった。
うわの空で返事をした銅は客の少年の姿をぼうっと見な
がら、薄っすらと溶け始めたアイスを口に運んだ。

「あら、誰かと思えば銅じゃない。そういえば今日はお
仕事だったかしら。」
「見た事ある少年だと思ったが・・・マゼンダ、貴女た
ちだったのか。」

銅がしっとりと視線を上げると、そこにはアイスを買っ
ている少年の母親なのか姉なのか、一人の女性が後ろか
らやって来た所だった。
銅の姿に気付くと、元から知り合い同士だった様であっ
たので、マゼンダと呼ばれた女性は銅のそばまでゆっく
り歩いて行くと、自分が掛けていたサングラスを外して
豊かな美貌を微笑ませた。

「こうして再会するのは久々ね、体の調子はいかが。」
「それなりだ・・・貴女も今日はおしとやかにしている
じゃあないか。」
「あら、その言い方は私が元々血の気の多いタイプみた
いな言い方じゃない・・・大丈夫、心配しなくても外向
けよ、病気じゃないわ。」

大きめな胸の前で固く腕を組み、マゼンダは銅に言われ
た冗談に浅くおちゃらけて見せた。
しかしながら、微笑む彼女の目は笑っているそれではな
く、むしろ元々笑顔に慣れていないのか輝きを失せた瞳
は声色とは対照的に冷ややかに銅を見下していた。

「その様子だと、今までラボに籠っていた様だな。」
「まあ、色々と仕事が山積みになっていたの。
全部片付けたら糖分が欲しくなったから、人があまりい
なさそうなこの店に来て見たら、貴方がいた訳。
結果として、ラボに戻ったら貴方たちを探すつもりだっ
たから、探す手間が省けて好都合だわ。」
「探していた、だと。」

アイスを丁度食べ終わった銅が自分に対し用事があった
という女の言葉を思わず聞き返す。
要件の詳細を求められたマゼンダは持っていた小ぶりの
バッグの中に長い指を滑り込ませて、1枚の赤いメモを
摘み出して銅にそっと差し出した。
メモには黒い文字で『アンズメコマドリの瞳で作った紅
茶でお茶がしたいの』となめらかな筆跡で書かれていた。

「・・・紅茶か。」
「そうみたいね。」
「それはどこにあるんだ。」
「その内わかるんじゃないかしら。」
「・・・・・・。」

銅の質問にマゼンダは淡々と答える。
メモの内容ではどこからどう読んでも情報不足であるし、
仕事の本髄はメモによる謎解きではないので、聞ける事
は質問しないと何も始められないから多少質問攻めになっ
てしまっても仕方がない。
どうやらマゼンダは銅がほとんど趣味の意識で行ってい
る副業、怪奇専門のなんでも屋のお得意客の様だ。
例えるならば銅がマゼンダに仕事の呼び込みを委託して
いる様な関係なのだろうか。

「ドクター、アイス溶けます。」
「わかったわスカイ、今そちらへ行きます・・・銅、手
伝いへ行けそうなら今回、彼らをそちらへ出向かせる事
があると思うわ、私は絶対に行きたくは無いけれど・・・
またお会いしましょう。」
「嗚呼。」

マゼンダはふっ、と指先で頬を伝う汗を軽く抑えて微笑
み、踵を返した。
前に立っている先程アイスを買っていたスカイ、と呼ん
でいる少年からアイスを受け取って夏の熱気に揺れる煉
瓦道の先へ歩いてそのまま影が消えて行った。

マゼンダとスカイの二人を見送りながら丁度アイスを食
べ終えた銅のポケットから高々と着信音が鳴り響く。
ポケットから携帯を取り出して銅は電話に出たのだった。
話は続き、偶然と必然はミルフィーユの様に表裏一体な
のである。

『この前のグロい琥珀玉の原材料がわかったわよ。』
「嗚呼・・・マスターか。」

通話に出た携帯電話から聞こえた相手の声は確かに高い
声ではあるが良く聞くと男の声だった。甲高くした、男
の声。

『お疲れ様ねっ!休憩中かしらん?あの琥珀はある動物
の瞳だと思われるわ。そう眼球、目ん玉ね!やーん!!
グローっく濁ってる部分は何だかわからなかったけど、
顕微鏡で見ると琥珀玉全体に細い血管を確認する事が
できたわよ!!一般的な鉱物の琥珀とは少し成分も違っ
たしねん!!そういうのに詳しい友人がショッボイ山の
奥ーの方に、胡散臭い店開いてるから連絡してあげるわ!
すぐに地図をメールで送るわねぇん!!』
「目玉・・・」

電話を切って直ぐに来たメールを見ると、そこにはとあ
る山へ至る地図と、山の麓から頂までへの地図が添付し
てあり、山の地図の方には、道の脇に赤いハートマーク
が一つ書き込まれてあった。
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