FC2ブログ
まったり創作しております。メインはオリジナル小説。そろそろ版権にも手を出したい。

スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

黄昏マリオネット19
3人は乾杯したカクテルを一口飲み入れる。無駄にとろみがついているが甘さは控えめで万人に受け入られそうな味である。カクテルの一口目を丁寧に堪能した所でウォルナットは用件を銅に伝えた。

「そういえば、その学校がどこかは調べる必要は無さそうだ。」
「・・・何?」
「ほら、これ。」

ウォルナットは胸ポケットから出した赤いメモを銅の前に差し出した。そこには白い文字で『四丁目の女学校にある図書館の本が読みたいわ』と手書きしてあり、その下に同じ筆跡で本のタイトルが書かれている。

「四丁目で女学校はひとつだろう。この前君たちが二丁目の山に行った時、マゼンダに頼まれて僕らが助っ人に行く予定だったんだ。しかし、間に合わなかったみたいで山の麓に白髪のシニョリータが倒れていただけだった。」
「・・・そうか。」
「まあ、そう不機嫌に見える顔をしないでくれ。美人がもったいないぞ。話には続きがあってだな、その側に落ちていた彼女の学生証はまさに・・・『四丁目の女学校』だったんだよ。」
「あーら、四丁目にある女学校って中々のお嬢様学校だったじゃないかしら?部外者はその中の図書館どころか門すら通れないわよ!」

マスターは頬に手を当てて驚く。帝雲町に学校団体は『帝雲学園』ひとつのみでその学園長はまさに帝である。町中にその分校がいくつかある形になり、四丁目の女学校は例にもれず帝雲学園の分校にあたるのだ。分校によって校風も全く違い、学生間でも同じ学校という認識は極めて薄い。件の女学校は富裕層や才能のある女子が主に通う帝雲学園屈指の名門であるらしく、その分ガードが強固という訳だ。

「・・・と、なるとやはり内部に非公式に潜入して調べるしかないか。」
「おお、珍しくヤル気だね銅君。」
「私もツテを訪ねて上手い事出来るか聞いてみるわァん。」
「嗚呼、宜しく頼む。」

目を伏せる銅の視線の先には空になったカクテルグラスが。話も纏まって来た所だったので銅は改めて帰り支度を始めた。

「流石に帰らないと咲希に怒られる。」
「嗚呼、今日の会計は僕持ちで構わない。引き留めたのはこちらだからね。」
「すまない。」
「素敵なひと時だったわ。表までお見送りさせて頂戴。」

さくっとウォルナットがスマートに会計を済ませフェイクファーのコートを羽織ったマスターと銅の3人はバーの表まで出る。今日は日射しは強いが湿度がそれなりにありその癖比較的寒く、往来には冬の様な装いの人々も良く見掛ける。季節の概念は余り無いこの帝雲町には今日のような季節では例え切れない天候の日もある。そんな中裸同然の衣装に上着だけとりあえず羽織り、外へ出向くこのバーのマスターは中々根性のある人間の様だ。

「また何かあったら連絡してくれ。」
「ええ、わかったわ。ウォルナット君もまた遊びに来てねん。」
「カクテル、美味しかった。今度またゆっくり遊びに来るよ。」
「はい・・・また。」

完全にほの字のマスターは小さく手を振って2人の男を見送った。角を曲がり姿が見えなくなるのを確認してから一息付く。吐く息はほのかに白く色付きゆっくりと漂って消えた。昼間それなりにあった湿度はかなり減ってしまった様で次の季節はどうやら冬が来る事を町の人々に予感させる。

「さぁーって、戻って呑み直そうかしらねェん。」

マスターはコットンキャンディの様な甘いピンクの髪をかき上げ何気なく空を仰いだ。日も雲に隠れてしまい灰色い寒空がビルの隙間から見えているだけだ。平々凡々。何気無い日々のひと時を噛み締めるかのようにマスターは瞳をきつく閉じ眉間にそっと片手を添え白い深呼吸をした。

「このような所にいたのですか、若殿。」
「・・・!」

いつの間にいたのか。マスターのすぐ後ろには3人程の男が立っていた。3人とも顔をマスクやネックウォーマーで隠していいるが服装はラフ、リーマン、学生風と一貫性が無く一見カラーギャングにも見えるがその眼光鋭く、とてもゴロツキに出せる殺気ではない。マスターは振り向かずもマスカラでまつ毛を過剰に盛った目を瞳孔までかっ広げてその殺気に意識を向けた。

「もう私を見つけたの・・・早いわね。」

マスターが追い求めて来た『平凡』はいつまでも続くものでは無いらしく、状況は突然かつ激しく転換していくようである。この突然現れる冬と共に。
スポンサーサイト
Copyright © 私の彼はクレピュスキュール(改). all rights reserved.
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。