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まったり創作しております。メインはオリジナル小説。そろそろ版権にも手を出したい。

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黄昏マリオネット18
カラン、コロン。

「あーら!銅ちゃん、ご無沙汰じゃなァい?」

ドアに取り付けられた来客を知らせる吊るしベルを鳴らして銅が姿を見せたのはいかがわしい雰囲気が漂う広めの地下バー。店員もボンテージだらけの『服』とは呼び辛い衣類を着用しており、その中でもコットンキャンディカラーに髪色を染め上げている最も際どく華美な女装の男はこの店のマスターだ。銅とは旧知の仲の様で互いに何も言わずともカウンター越しにひとつだけ不自然に空いた椅子に着席した銅にマスターはそっとカクテルを1杯作り始める。

「嗚呼、八ツ梅の所にな・・・。」
「あー『おめめあります』!?あの子、ちょっとブッ飛んじゃってたでしょう?迷惑掛けなかったかしらァ?」

マスターはつけまつげをばさばささせた目をかっ開いて驚く。銅は差し出されたマスターの悩ましい気持ちを表した様な水色から藍色のグラデーションに彩られたカクテルをそっと口にする。ジンベースなので意外にさっぱりとした味だった。その点はしっかり考えているあたりマスターは店のトップなだけある。銅はゆっくりと一口飲んで咥内にその味を確かめる。

「・・・問題無い。」
「そう?なら良いけど!・・・あ、何か飲食物出されたかしらん?大体ヤバいもの使ってるから口にしちゃダメよ!?」
「嗚呼・・・そうだな、食べてないな。」

食べて『は』ない・・・自らの同居人、柿太朗が口にしたタンポポコーヒーを思い出して銅はそっと言葉を飲み込み口をつぐむ。先に話を聞いておけば良かったと若干の後悔を胃の辺りに感じた気がした。

「それで、あのグロい琥珀について八ツ梅に何か聞けたのかしら?」
「そうだった・・・今日はその件で来たんだ。『おめめあります』に行ってから色々あってな、その琥珀玉に呪詛を掛けた者の通う学校の制服まで突き止めたんだ。これなんだが・・・八ツ梅が制服の絵を描いてくれた。」
「えっ、あの子が!あんな弱々しい指でペンとか握れるの!?」

マスターはつけまつ毛だらけの目をかっぴらく程驚いてイラストをメモした紙を見る。葉書大の紙に描かれた制服姿の白髪の女。筆のタッチは非常に軽く色味は薄いが意外に八ツ梅は絵心があるようだ。強いて言うなら紙からは微かに独特な香りがしている。例えるならお香の様な癖のある香りだ。

「・・・あらぁ、結構絵として成立してるじゃない。変な香りはするけど。」
「その学校がどこかと、どの様な学校かという事を調査して欲しい。」
「少しだけ時間頂戴・・・最近団体貸し切りが多くて忙しいのよ。」
「構わない。」

銅は取引があっさり纏まると、お代をカウンターに置いて席を立とうとする。マスターはその姿を見て眉を吊り上げて無理矢理高くした猫撫で声で銅を呼び止めた。

「ええー!もう帰っちゃうの!?いやん!」
「お夕飯の買い出しにいかないと、咲希が待ってる。」

妹が待っているなら仕方ないとマスターは眉を八の字にしてお代を受け取ろうとする。しかし会計がその場で成立する事は無かった。銅の横から長い腕が降りてきて、その指をお代を掴んだマスターの細い指に絡ませる。一足先に腕の持ち主の顔を見たマスターは表情を女そのものにして押し黙ってしまった。とどのつまりほの字なのである。銅がうっとおしそうに背後に視線を見上げると、イタリア人の様な彫りの深い垂れ目の優男が立っていた。

「久しぶりだね、『シニョリータ(銅ちゃん)』。」
「・・・私は男だ、ウォルナット。」

銅は怒りを凝縮した様な重たい声でウォルナットと呼んだ男のからかいに訂正を掛ける。ウォルナットは太めの眉をぴくりとあげて銅にウインクを溢した。突然表れたウォルナットと呼ばれる優男の登場にマスターはスイートピンクの前髪を片手の指先で整え出した。マスターは俗い表現をするならオカマだが、今の表情は女である。もう片手は今しがた銅から出されたお代を掴んでいたが、ウォルナットにその手を捕らえられ動かせない。その分マスターの心臓は緊張で早鐘をうっており、鼓動の音が周囲に聞こえてしまいそうだった。必死に平常心を装いよそ向きの言葉使いで声を掛ける。オカマは初対面の美青年に弱い。

「あ、あらぁ・・・?銅ちゃんの知り合いにこんな素敵な男性がいらっしゃるの~?もっと早めに紹介して欲しかったわぁ・・・。」
「シニョリータ。僕にも一杯作ってくれないか?あ、そうそう『シニョーレ』の・・・銅君にもおかわり、頼むよ。」
「はァい・・・急いで作ります・・・。」

ウォルナットはメロウな指の動きでマスターの指からお札を取るとさりげなく中性的な容姿の銅をからかいながら銅のズボンのポケットにそっと戻した。『まだ帰るには早い』と視線で銅に伝え隣の席へ座る。マスターは恋心を液体に変えた様な淡い桜色のカクテルを2杯作り2人の前にそっと置く。わざわざ銅のコースターもとっておきの綺麗なものに替える程の気合いの入れ様だ。わかりやすい。

「そうそうシニョリータ、君にも一杯。銅君との再会に一緒に乾杯してくれないか。」
「あらぁ、ありがとうございます~!一緒に乾杯出来て光栄だわぁ・・・!」

マスターは慌ててもう一杯カクテルを作り始める。銅は少しどころかかなり不服な表情でカクテルに視線を落とす。

「・・・。」
「なんだい?ご機嫌斜めじゃないか。」
「何の用だ・・・」

ため息を吐き出す様に銅はウォルナットに用件を早急に伝える様に言い、相手からのからかいを面倒そうにあしらう。マスターも自分のカクテルが仕上がった様で冷えたグラスに注ぎ入れる。嬉しい気持ちが強く出たのか少しだけ2人に作ったものよりリキュールが多くなってしまった様で同じレシピなのに赤みが若干濃いものがグラスに満たされる。3人は杯を小さく合わせて乾杯した。
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