まったり創作しております。メインはオリジナル小説。そろそろ版権にも手を出したい。

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黄昏マリオネット9
二丁目―――――
大きな山がそびえ立つのどかな村は豊かな水源に恵まれ
ており、沢山の水脈や川が山を核にして張り巡らされて
いる。山の麓の村は農業を盛んに取り組んでおり、町に
出回っている野菜の殆どはこの村で作られている。



「先輩・・・・・・これは一体・・・」
「何ってお前、行きたがっていたじゃないか。ちょっと
した旅行だ。」

じりじりと照りつける夏、銅とその妹の咲希、そして二
人の同居人の柿太朗は車が通れない程の道幅の山道を歩
いて登山をしていた。
常日頃まさに口癖の様に仕事をさぼりたいだの、愛する
銅先輩と旅行に行きたいだの、1日一緒にいたいだのと
駄々を捏ねる柿太朗に先日銅は『週末から旅行に行くが
週明けまで掛かってしまうから有給を取っておけ』と伝
えた事に、柿太朗は素直に喜んで今日の今までるんるん
だったのだが、結局は副業の『仕事』だったという訳だ。
しかもこの焼け付く様な炎天下の中、山に着いて初めて
登山をする事を知った柿太朗は当たり前だが何も用意し
ておらず、どうにもこうにもとりあえず荒い呼吸を立て
て必死に山を登るしかない。
前を歩く兄妹を見ると、なんと涼しい顔して水筒に入れ
た麦茶を飲んでいるではないか。
柿太朗は、喉の奥の渇きがより一層強まった感覚を感じ、
思わず出てくる事ももう無いほどの固唾を噛みしめる様
にぐっと飲み込んだ。

「先輩、俺にも一口下さいっス・・・!」
「持って来なかったのか・・・ほら」

銅がトスして寄越してくれた水筒を柿太朗はキャッチし
て口を付けた。
いつぞやと違い、今回は愛しい先輩との間接キスを思う
存分堪能出来ると少々気色の悪い事を脳内に駆け巡らせ
柿太朗は水筒の中に入っている麦茶を一気にかっ込んだ。
これで喉も潤って、少しばかり暑く感じる気も紛れるで
あろう・・・・・・と、思っていた時が柿太朗にもあっ
たのはほんの数秒前の事だった。

ぴちょん。

「・・・え?」
「空、ですわね。」
「ちょうど空になってしまっていた様だな。」
「そんな・・・あんまりっスよー・・・」

水筒の中から出て来たのは一滴の雫。
銅が飲んだ時に中身がぴったり空になってしまった様だ。
期待していた分、柿太朗の喉は尚の事渇きを覚えてしまっ
た様で、行き場のない消化不良な気持ちに思わず表情が
苦くなってしまう。
咲希の水筒はどうかと聞いたが、先程飲み切ってしまっ
たと申し訳なさそうに空の水筒を逆さにして振った。

「それにしても、もうそろそろのはずなのだが・・・」
「・・・・・・んん?」

携帯の画面いっぱいに広がる地図を見ながら眉間を寄せ
る銅の隣で柿太朗が急にすんすんと鼻をひくつかせるジェ
スチャーを取りだす。
何らかの香りを、鼻孔いっぱいに感じたのだろう。
柿太朗はずいぶんと鼻が利く男なのである。

「先輩、ここからもう数100メートル程こっちに行っ
た所に何か香りますね、ちょっと待ってて下さい・・・
んー、木造の家の様っスね。錆びた鉄・・・釘の匂いと
檜・・・の様な香りがします。それと・・・ん、これは
・・・珈琲・・・原材料は嗅いだ事の無い香りですが、
近い物ですとタンポポの様な物で煮出しているみたいっ
スね・・・莨の匂いもします。煙管なんスかね・・・
属が焼ける香りも一緒にします・・・この香りが一番強
いので、どうやら沢山吸ってるみたいっスね・・・」

柿太朗はその鼻に感じた香りを辿る様に脇道へ歩き出し、
銅と咲希はそれに従い後ろからついて行く。
暫く小さな木の根を軽くまたいだり、葉を避けながら歩
いていると、木々の隙間に開けた土地が表れた。
そこには木材をつぎはぎして作ったようなお粗末な小屋
があり、傍に立て掛けてある看板には売り文句なのか、
はたまた店名なのかは不明だが、『おめめあります』と
何とも奇妙な言葉が書かれている。

「うっ・・・近くに来るとさらに色んな香りが混じって
いるのがわかって、結構すさまじいっスね。」
「そうですわね・・・私も流石に感じていますわ。」

咲希は思わず眉間に皺を寄せて可憐な顔を不快に歪ませ
て柿太朗に共感した。
銅も訝しげな顔をしている所をみると、同じ不快感をこ
の小屋から感じている事はまず間違いないだろう。
そっと崩れて落ちてしまいそうな程のお粗末な取り付け
のドアを開くと内装は外装よりさらにきつく、ど派手な
装飾品や小屋の主のコレクションであろう醜美な美術品
や硝子ケースに入った様々な生物の眼球・・・が無造作
に詰め込まれて置かれており、この小屋の主があの趣味
の悪いマスターの友人であると一目でわかる華美で醜悪
な程の個性が前面に押し出されている。
むしろマスターよりはるかに悪趣味なのは間違い無いで
あろう。

「咲希、足元に気を付けろ。」
「あら、兄上は相変わらず冷静ですわね。あまりこの汚
さ・・・醜美さは気にならないのかしら?」
「咲希の姉さん、多分銅先輩は相当この汚さに嫌悪感を
抱いていると思うっスよ。」
「そうですの?」
「ええ、見て下さいあの目付き・・・卑しい汚物を見て
いるのかと言わんばかりの冷やかな・・・。嗚呼、俺も
たまにはあんな瞳で見つめられるのも悪くないかもしれ
ないっス。」
「・・・柿太朗殿に対しての兄上の冷やかな視線は、割
と毎日されていません事?」

兄の様な冷やか視線を柿太朗に向けて咲希は小さく言葉
を吐き捨てた。
銅を先頭にしあの小屋の外観からしては意外と広い店の
奥まで行くと、そこには客は誰一人いないが、カウンター
テーブルにコーヒーサイフォンが置いてあり、どうやら
この小屋は一応カフェだという事が小屋の奥まで入って
やっとわかった。
カウンターの向こう側にはキッチンが広がっており、そ
の端には独りの女が小さく椅子に座りぽうっと呆けた顔
で煙管を吸っている。
ワンレンボブカットの水色の髪の毛、口元はだらしなく
へらへらと笑みをこぼし、山羊の様なぎらついた瞳孔を
歪ませた眼をぱっちり開けて、副流煙に体を包まれなが
らこちらを力が入っていない表情で見ている。
確実に焦点が合っていない目付きから、この女性がとて
つもなく怪しげな人間である事は確かだ。
女性は消え入りそうなか細い声で銅たちに声を掛けて来
た。

「いらっしゃい・・・おきゃくさんなんて、めずらしい
わ・・・。」
「帝雲町のバーのマスターに紹介されて来た、銅と言う。
何かの眼球と疑われる鉱物について見解を求めたい。」
「がんきゅう・・・めだま・・・。」

山羊目の女性はその瞳を一層ぎらつかせ『眼球』のワード
に反応して3人をねっとりと凝視した。
それに対し銅達は思ったより目の前の女性の奇怪な様子
を全く気にせずゆっくりと口を動かす相手の返事を待つ。
元々普通でない物に対し受容性が高いのもあるだろうし、
副業の怪奇専門の何でも屋で見慣れているからであろう。
はたまた、彼ら自身が普通ではないのかもしれないが・・・

「いいわ・・・。おいすへどうぞ、わたしはやつうめ。
こーひーはいかがかしら・・・。」
女性は消え入りそうな声で『八ツ梅』と名乗った。
八ツ梅が進めて来た珈琲に対し銅と咲希はやんわり断っ
たが、あの男の反応は違った。
柿太朗はここへ至る山道で一滴も、いや、一滴しか水分
を得る事は出来なかったのでいわずもがな、喉は渇いて
渇いて仕方がなかったのである。

「え!コーヒー!?じゃあ俺、アイスで飲みたいっス!」
「柿太朗、辞めておいた方がいいぞ。そんなに良い物で
もない。」
「たんぽぽでにだしたこーひー・・・とってもおいしい
から、あんしんしてのんでだいじょうぶよ・・・。」
「やっぱりタンポポコーヒーっスね!いただきまーす!」
「・・・聞いちゃいないな。」

銅の抑制も無視して渇きに植えた男、柿太朗はグラスに
入った冷たいタンポポコーヒーを一気にかっ込む。
喉の奥から冷たい潤いを得て、やっと柿太朗は喉の渇き
から解放され一息付けたのだった。
この男は渇く事を人一倍嫌うのである。

「くーっ!美味しかったっス!」
「まあ!柿太朗殿ったら、一気に飲んでしまいましたの
ね・・・。」
「ん?なんスか、咲希の姉さん?」
「いえ・・・何でもないですわ・・・例の眼球を視て頂
きましょう。」

口元を軽く抑えて咲希は話を逸らす。
何故そうしたかは後にわかるとして、銅は硝子瓶に入っ
た琥珀玉を八ツ梅に差し出した。
八ツ梅は煙管を啄んで煙を吸い込み、ゆっくりを吐き出
しながら琥珀玉をじっとりと嘗め回す様に見つめた。

「これは・・・あんずめこまどりのめだまだとおもう、
わ。なかのくろくてきたないのは、わからないけれど。」
「アンズメコマドリ・・・。」

銅は先日の赤いメモを思い出した。
『アンズメコマドリの瞳で作った紅茶でお茶がしたいの』
なめらかな文字の黒色を鮮明に思いだし、偶然と必然は
ミルフィーユの様に表裏で濃厚に重なり合う関係である
事を苦く、噛みしめる。
銅は思わず嘲笑に口元を緩ませてしまった。

「その、アンズメコマドリはどこに生息しているんだ?」
「あんずめこまどりのおめめは、わたしも、これくしょ
んしているけれど・・・このていうんちょうのなか
ではこのやまのいちばんうえにあるいけにすんでいる、
わたしのおともだちがそだてているだけだわ・・・。」
「その友人はどの様な方なのです?」

椅子から全く立ち上がらずに手だけ煙の様にゆらゆらと
伸ばしてメモ紙と細身のペンを取り出して八ツ梅はこの
『おめめあります』と看板に書かれた小屋(一応カフェ)
から山頂に至る詳しい地図を書きながら、表情ひとつ変
える事無く友人の事を話し始めた。

「おともだち・・・すいじんといって、みずのかみさま
なの。でもね、さいきんとてもおちこんでいるみたいで、
わたしがたずねても・・・ほこらのあるいわやからでて
きてくれないのよ。けっこうながいつきあいだから、い
ままでこんなこと・・・まったくなかったのよ。わたし
がいるときだけでてこないのかもしれないから、もしか
したら・・・だれもいないときは、でてくることもある
のかもしれないけれど・・・。」
「貴女以外の人がご友人を尋ねる事はあるんスか?」
「いいえ・・・かれはこのやまのすいみゃくをまもるか
みさま・・・ふだんはどうぶつくらいにしかすがたをみ
せないはず・・・。わたしはかれがこのやまにきたとき、
たまたまいあわせてしまってきせきてきにえにしをつむ
ぐことができたの・・・。」
「確かに人間である貴女が神様とご友人になれる事は、
奇跡的に珍しい事ではありますわね。」

八ツ梅の声が平仮名になってしまう程弱々しい為、いま
いちわかりずらいが要約すると、八ツ梅の友人でこの山
の山頂に住み山の水脈を守っている水神が、この帝雲町
で唯一アンズメコマドリを育てているのだが、普段は友
人である八ツ梅以外の人間の前には表れないどころか最
近は落ち込んでいて八ツ梅の前ですら祠のある岩屋から
出て来ないらしい。
八ツ梅は震える手で地図を書き終え、疲れて来てよりか
細さが増した声で銅達に話し掛けながらガタガタになっ
た線で書かれた地図を細い指でつまみ銅の手に落とす様
に置いた。

「あなたたちがかれにあえるかはわからないけれど・・・
いちおうちずをわたしておくわ・・・。」
「出来るだけの事はする、有難う。」

銅達は小屋を後にして山頂を目指した。
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